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「ブルーピリオド」を読んだ感想・レビュー

 

個人的には美術とか芸術なんかに全く興味がなくて、学生の頃は「サボるための授業」くらいに思っていました。たぶんそういう人は割りと多いんじゃないかと思います。

僕は芸術センスの欠片が微塵もなかったので、どちらかと言うと「絵なんか書けなくたって生きていけるし」くらいの感じ。でも自分に才能がないっていうコンプレックスを完全に排除したら、絵がうまいという才能には羨ましさを感じてたと思う。

そこで今回は、そんな僕が一瞬で心を奪われた芸術スポ根物語「ブルーピリオド(連載中)」を紹介します。

 

 

ブルーピリオド あらすじ

 

スクールカースト上位に君臨しているリア充、高校2年生の矢口八虎は仲間たちと朝まで騒いだ後に学校へ行くような、いわゆる不良少年である。仲間たちと朝までバカ騒ぎするのは「学校の勉強ばかりしていると、つまらない大人になるぞ」という父の教えによるものだ。

そんな不良少年も、決して学業を怠っているというわけではない。授業中はサボったりなどせずに勉学にも励むし、テストをやっても学年でトップクラスの成績を残している。これは「遊んでばかりいないで勉強しなさい」という母の教えによるものだ。

 

八虎はある時、美術室に飾られていた1枚の絵に心を奪われた。それは「人間の絵なのに、なぜ肌が緑色なのか?」という、単純な疑問から生まれたものではあったが、これまで合理性や効率だけを追求して生きてきた八虎の心に風穴を開けるには、十分すぎるほどの衝撃だったと言えるだろう。

これは「絵なんて趣味でいいんじゃねぇの?」と思っていた人間が、真剣に美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語である。

 

ブルーピリオドの登場人物

矢口 八虎

 

本作の主人公。両極端な両親のもとに生まれ育ち、周りからはDQNと言われているが成績が優秀でスクールカーストの上位に君臨している。

ある時、美術室で見た絵に心を奪われ、自分なりにそれを再現しようと思って描いた絵が周りから褒められたことで「初めて人と会話できた気がした」という気持ちになり、真剣に美術の道を志すことを決める

 

鮎川 龍二(ユカちゃん)

 

八虎の同級生で、見た目は可愛らしい女の子だが実際には男らしい(現時点では掘り下げて描かれていないので、あくまで僕の想像)。

 

森先輩

 

八虎が部内で一番才能があると思っている人物。八虎が美術の道を志すキッカケとなる絵を描いた人物でもある。

学校の美術部ではトップの才能を発揮するも、予備校での成績は下から5番目だったらしく、八虎に芸術の世界の厳しさを間接的に教えた。武蔵野美術大学への入学を決めている。

 

美術の先生

 

美術の先生。好きな風景という課題を出し、それに対して男子生徒が「彼女にパフパフしてもらってる時の景色」と答えた時、それを茶化すことなく会話に乗ってきた強者。

 

高橋 世田介

 

予備校の冬期講習で出会ったライバル。国語の模試でも全国7位という成績を残しており、デッサンでは周りの度肝を抜くほどの技術を見せつけた。

八虎にとっては、まだ雲の上のようなライバルであり、自分とは違う天才であると評価している。

 

ブルーピリオドの見所をチェック!!

年頃の青年の心理描写が巧み

 

自分が好きなジャンルのことで「センスがあるね」って言われると嬉しいって感じる人は多いと思うんだけど、自分が好きじゃないジャンルのことで「センスがあるね」って見当違いの方向から言われても嬉しくないって感情ありませんか?

例えば「サッカーが上手くなりたい」って思って努力した結果、周りから「サッカーうまいね」って言われると嬉しいのは、自分にとってそうなりたいと願っていた姿を他人に認めてもらえたからだと思うんです。

 

これが「別に頭良くなりたいって思ってないけど、授業を普通に聞いて家でも復習した結果、試験の結果がそこそこ良かった」って場合に、全然勉強してないような奴から「頭いいんだね」って褒められても嬉しくないというか。「いや、俺最低限のことやってるだけだし。つーか、お前がやってねーだけだし」って気分になりません?

そんな時の虚無感とか虚しさみたいなものの表現の仕方が秀逸です。語彙力がハンパ無い。

 

ガツンと響いてくる言葉の数々

 

僕は若い頃から「夢」ってもんがなくて、無難な人生を過ごしてきました。でも本当に「俺は〇〇になるんだ!」っていう明確なビジョンがあって高校や大学を選んでる人なんて、そんなにいないと思うんです。

多くの人が自分の手持ちのカードを並べて、その場で選べる1番無難な選択をしてるだけじゃないかと。受験にしても別にその学校に行きたいという明確な志望動機はなくて、本音で言えば「自分の力で狙える中で1番入るのが難しい学校だから」的な。そういう僕みたいな人にはメチャクチャ響いてくるセリフが多々出てきます。

 

例えば野球が好きで野球部に入って、一応甲子園という目標は掲げたけどそれが叶わないという人は五万といるわけで。多くの人が「甲子園に行きたい」とか「プロ野球選手になりたい」って考えて野球部に入っているというわけじゃないにしろ、そんな人が「好きなことは趣味でいい」って言うのは違うんじゃないかというニュアンスの場面があるんです。

 

「野球が趣味で上手な人はいっぱいいるけど、好きなことに人生の1番大きなウエイトを置くのって普通じゃない?」

「だったら野球を仕事にしたいって考えになってもいいんじゃない?」

「好きなことは趣味でいいというのは大人の考えであって、高校生のあなたが言うような言葉じゃないよ」

「頑張れないのは、本当にそれが好きじゃないからじゃないの?」

 

頭ごなしじゃなくて、すごく柔らかい感じで高校生と向き合う先生の雰囲気に心を打たれたってのもあるけど、何事も中途半端だった僕にはすっげー響いてきました。

それこそ僕が、甲子園になんか当然出れないし地区大会の初戦を勝てるかどうかって野球部のぎりぎりレギュラーくらいなのに、大声で「野球で飯食っていくわけじゃねーし、趣味でやれりゃあいいのよ」って言ってたタイプですから。そういう人にこそ読んで欲しい。

 

共感できる場面が多い

 

芸術センスが微塵もないし、絵のことなんか全くわからないという人でも、多くの共感ポイントが用意されています。例えば実際に絵を描いて、それを1枚1枚先生に批評してもらうって場面があったとするじゃないですか?

多くの人は前に出された全員の絵を見て「俺の絵が1番上手い」とか「アイツの絵がめっちゃ上手い」とか思いながらも、1番は「自分の絵にどういう評価を下されるか」しかないわけですよ。無茶苦茶言われんじゃないかなーとか。で、褒められればやっぱ嬉しくもなるはずなんです。

 

それが「実力的に明らかに周りよりも劣っているのに、初心者というフィルター越しに評価をくだされたことの辛さ」みたいなのって、誰しも経験があるんじゃないでしょうか。

「ここがイマイチ」とか辛辣な言葉を浴びせられるのって、逆に言ったら「期待してるからこそ出てくるセリフ」であって、自分がまだその位置にいないことの葛藤とか、そういう表現がメチャクチャ上手いです。

 

ブルーピリオド コミックス1巻を読んでの感想

やっぱ青春漫画には熱量が必要だと思うんだけど、その辺に関しては全く問題なし。絵描きがテーマだとどうしてもオタクっぽさというか、地味なイメージを持ってる人って多いと思います。

でも主人公がまず、そういうのをやらなそうなDQNっていう設定もあるし、物事が好きになるキッカケって意外と些細なことだったりするから、そのへんの見せ方がメチャクチャ上手い作品なので、誰が読んでも楽しめると思う。

 

あとは「心を奪われる絵と上手な絵は違う」っていう感性の問題についても、すごく伝わってきます。例えば、その辺の歌手よりも歌が上手くてカラオケの採点でも100点とかバンバン取る人は少なくないけど、心にグッとくる歌を唄えるのってやっぱ歌手の人なんだよなぁ的な。

僕は絵のことが全く分からないし、ピカソの絵を見てもゴッホの絵を見ても、多分なにも感じないと思う。そんな僕が、八虎の感じ方に共感するんだから、読者への見せ方は抜群に上手いんだろうなぁって思いますよ。

芸術の世界に興味がないからって読まないのは、あまりにも勿体無さ過ぎる作品です。

 

あとがき

芸術家としてまだ青かった主人公が成長して、最終的に「もう自分は成熟した、青かった頃の自分はもういない」って意味でのブルーピリオドだったりする?違う?