個人的には非常に好きな作品です。「パンティストッキングのような空の下」で大ヒットを飛ばしたうめざわしゅん氏の短編集。そして全1巻完結済み。
漫画好きの人からしたら「なんで今更?」って思うかもしれないけど、理由はごく単純で「僕が紹介したいと思ったから」です。読んだことがないという人に、ぜひ読んで欲しいと思っているからです。
個人的にはもっと評価されるべき作品だと思ってるし、軽々しく使う言葉じゃないと理解したうえで「才能が怖い」と表現したくなるような作品なんですよね。
というわけで今回は、うめざわしゅん氏の短編集「ユートピアズ(全1巻完結済み)」を紹介します。
ユートピアズ あらすじ
- ナオミ女王様に仕えた日々
- オソロ
- チカン列車は危険がいっぱい
- チューブ
- センチメンタルを振り切るスピード
- つながった世界
- ヘイトウイルス
- どつきどつかれて生きるのさ(前編)
- どつきどつかれて生きるのさ(後編)
- 誰が為にカメは在る
本作は2006年に発行された、うめざわしゅん氏による短編集である。全9編(「どつきどつかれて生きるのさ」は前後編)によって構成されており、この1冊で9つのショートストーリーが楽しめるようになっている。
どれも不思議で独特な世界観を持っているが、中でも「ヘイトウイルス」は2012年にフジテレビの「世にも奇妙な物語」にて元SMAPの草なぎ剛さんの主演でドラマ化されたため、多くの人が知っているのではないだろうか。
表紙の絵を見てもらうだけでも分かるように、まさに奇想天外。常識にとらわれない、その唯一無二の世界観をぜひ堪能してみて欲しい。
ユートピアズ収録作品のストーリー紹介
簡単にストーリーの初期設定について書いていきます。
簡単なあらすじの紹介に僕の感想を一言二言添えるような感じで進めるんで、基本的に物語の核心部分に迫るような致命的なネタバレは無しの方向で。
ナオミ女王様に仕えた日々
簡単に言うと「世の中に蔓延るMの人の為に公認女王様ってのがいて、その公認女王様になるには試験みたいなものがあって、それを受けるためにはまず教育実習的なものをやらないといけないんだけど、その教育実習期間を描いた物語」って感じ。
意味わかります?僕、よくわからない。
良い話なんだか何なんだかよくわからない不思議さが残ったけど、後味は悪くない。なんだろう…初めてレンジで温めるアイスを食べた時みたいな感じです。衝撃的。
オソロ
彼氏のことを病的に愛している彼女が、何でもかんでも彼氏とオソロにするって話。
お揃いのアクセサリーくらいならすっげー可愛いと思うし、絶対に別れないって確信があるならお揃いのタトゥーまでは理解できるかな。個人的には、これも世にも奇妙な物語で全然イケると思う。
チカン列車は危険がいっぱい
主人公の男が電車に乗り過ごす寸前ギリギリで飛び乗ったら、それが女性専用車両で、女性の乗客たちからとんでもないイチャモンを付けられてしまうというストーリー。
これが描かれた当時、女性専用車両ってあったのかな?僕は電車とか乗らないド田舎にいるからアレだけど、痴漢とかでっち上げられちゃう世の中なんだから女性専用車両は賛成。
でも、最近の日本は過剰におかしいなって思う部分があるじゃないですか?そういう部分を皮肉った感じがすっげー秀逸です。あとオチも絶妙。
チューブ
とある国に派遣されて自爆テロの犠牲となった男が、12年ぶりに植物状態から目を覚ますところから物語が始まります。で、結婚していたはずの妻とは離婚。息子も大きくなっていて、自分を父親とは思っていない始末という…。
設定だけ書いたらこんな感じだけど、結構前向きな感じで終わるのは気持ち良いと思った。あと、この物語を描いた当初はさほど嫌煙文化みたいなものが無かったような気がするから、なんか色んな意味で脱帽。すげーよ、この人。
センチメンタルを振り切るスピード
中学時代に東京から田舎に引っ越してきた主人公が東京の大学に合格し、再び東京で生活を始めるまでの様子を描いた物語…って感じかな。
転校生ってことで洗礼を浴びながらも、助けてくれる仲間がいて。「そこで育んだ友情とかそういう感情は、近くにあると気付きにくいもんだよね」ってことが言いたい系の作品じゃないかと、僕は勝手に思ってる。
小説になりそうな気もするし、何なら国語のテストで「この時の主人公の心情は?」って問題を出してみるのも面白いかも。面白いっていうよりは、考えさせられる作品ですね。
つながった世界
「1人1人が自分をさらけ出し、お互いが心から分かり合う世の中」を再現した結果、学校からはイジメが無くなったけど、その代わりに大切な何かが無くなってしまったって感じの話。
これもちょっと皮肉系じゃないかなーって思ってる。そして、今の日本を見ているとこっち系に近付きつつあるんじゃないかなーって気もしなくもない。
でもそれはここ数年で急速的にそうなってきたって話だから、10年以上も前にこうやってストーリーとして仕上げていたってことを考えると、これはもう控えめに言っても天才でしょう。
ヘイトウイルス
上の方でも書きましたが、2012年に元SMAPの草なぎ剛さんの主演でドラマ化(世にも奇妙な物語)されています。読んでみるとわかるけど、いかにも「世にも奇妙な物語」って感じのシナリオです。
核も保有していない世界的に平和となった世の中で、ヘイトウイルスと呼ばれるウイルスに感染すると、感情の変化などから衝動的になってしまうという設定。でもそれは実は…みたいな感じが憎いですね。
暗転後にタモさんが出てきてニヤリとする絵が浮かんできます。
どつきどつかれて生きるのさ
なんか色んな感情が揺さぶられ過ぎて、もうワケわからない感じの作品。僕の拙い文章能力だと、何を書いてもネタバレになっちゃう気しかしないので、これについてはこの辺で。…とはいかないですね。
まぁ簡単に言うと「セトウツミ」とか「べしゃり暮らし」みたいなテンポの良さを持ちつつ、キャバクラが女の子とお酒を飲む場所とは限らないというぶっ飛んだ設定で、トレンディードラマに見た感動的な要素を入れたような感じ。
意味わかります?僕、よくわからない。
誰が為にカメは在る
どこにでも居そうな15歳の少年が「宇宙はカメだった」という事実を発見したという物語。「は?なにそれ?」と思ったあなたは正常。
たぶん「地球は丸い」とか「地球は回ってる」って事実が明るみに出た時も、人々はそんな感じのリアクションをしたでしょう。でも宇宙はカメだったんですよ。
スタップ細胞があるかどうかは知らないけど、とりあえず宇宙はカメでした。
「カメってあのカメ?」って思います?そんなこと言われたら「それ以外のカメを知ってるのか?」って思うけど、たぶんそのカメで合ってる。
ユートピアズを読んだ感想
人々の幸せのカタチというか、それぞれの楽園って意味でのユートピアズってことだと思うんだけど、とにかく最初から最後まで感心させられっぱなしでした。
世にも奇妙な物語が好きな人には間違いなくハマると思うし、個人的にはおかしな世の中をちょっと皮肉ってるような感じがして堪らないんですよね。このセンスは天才…いや、神。
うめざわしゅん氏は、世間的にもショートショートの作家さんってイメージが強いと思うんだけど、僕は「普通の漫画も描けるけど、ショート作品にただならぬこだわりを持ってる人」って印象を持ってます。
それこそダウンタウンが独自のリズムで漫才を始めたような感じ。普通の漫才もできるけど、あえて早口のべしゃり漫才じゃなくてダウンタウン調で勝負した的な。
いずれにしても、これだけのショート作品がこの本1冊で堪能できるってのは、間違いなくお買い得だと思う。読んだことのない人はぜひ読んでみてください。
あとがき
「ワクワクする」って感じじゃない、絶対的な面白さがあります。