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「不能犯」を読んだ感想・レビュー

不能犯表紙
Ⓒ不能犯

割と定期的に「洗脳、マインドコントロール」を駆使した重大犯罪者が出てきますが、精神状態に異常があるときは何があっても不思議ではありません。

ちょっと汚い話になるけど、お茶を出されて美味しく飲んでたら飲み終わったタイミングで「それオ〇ッコです」って言われたら大半の人は気分が悪くなるでしょう。それは冗談で実際には本物のお茶であったにもかかわらずです。

このような思い込みを利用して、人を殺すことができたらそれは殺人になるのかどうかというのが本作のテーマ。というわけで今回は、立証不可能な完全犯罪の立役者の姿を描いた「不能犯(全12巻完結済み)」を紹介します。

不能犯のあらすじ

数々の変死事件現場にあらわれる謎の男・宇相吹正。しかし、誰も彼の犯行を証明することができない。人は彼を、犯罪を実証することができない容疑者「不能犯」と呼ぶ…。 憎悪、嫉妬、欲望そして愛…… 宇相吹は依頼人の歪んだ思いに応え、次々と人を殺めていく…。 戦慄のサイコサスペンス開演!!

不能犯の見所をチェック!!

プラシーボ効果みたいなもので人が死んだら…?

不能犯1
Ⓒ不能犯

人体には不思議な点がまだまだ多く、特に思い込みというのは意外な力を持っているものです。みなさんも思い込みの力に助けられたことってありませんか?

乗り物酔いをする人に対して「これを飲めば乗り物酔いしませんよ」と薬を渡した場合、その薬に酔い止めの効果がなくても一定の効果が得られることをプラシーボ効果(又はプラセボ効果、偽薬効果)と呼びます。好きな子にキスのおまじないをされると力が湧く…みたいなもんです(←違う)。

いわばおまじないとか願掛けに近いものですが、じゃあこれが逆に「害を及ぼすもの」だったとしたらどうでしょう。何気なく口に含んだコーヒーに毒が入っていると聞かされた場合、本当は毒なんか入っていないのにそう思い込んでしまった人がもし死んでしまったら…。果たして「そのコーヒーには毒が入っている」と告げた人物は殺人犯になるんでしょうか。

本作の主人公は、そういう思い込みの力を利用して殺し屋まがいの仕事をしています。この完全犯罪、いつか罪として明るみになるのかどうかっていうのが大きな見所の一つです。

邪魔者を排除したつもりが自分に降りかかってくる不幸

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Ⓒ不能犯

本作の主人公は依頼人から「〇〇を殺してほしい」と依頼され、ターゲットに対して直接手を下すことなく殺しを実行します。もちろん依頼してくる人間たちはいずれも自分本位で殺人を依頼してくる人物ばかり。

場合によってはいじめなどが原因で「あいつさえいなければ…」みたいな展開があるものの、多くは「あいつさえいなければ自分の人生は安泰だ」とか「あいつが憎くてたまらない」という感情から主人公に依頼してくるケースがほとんどと言っても過言ではないでしょう。

そういう人が幸せになれるわけもなく、多くのケースで全員が不幸になって終わってしまうっていう感じがなんとも言えません。この展開が「世にも奇妙な物語」のような後味の悪さを醸し出しています。

最初こそ驚くものの何度も似たような展開が繰り返されるという意味では、どんでん返しというほどのものではないんですが気味の悪さは一級品です。

捕まりたい殺人鬼と捕まえたい刑事の関係性

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Ⓒ不能犯

本作の肝になる部分は、主人公の完全犯罪を警察が阻止できるかどうかという点です。主人公は依頼があれば独自の方法で依頼を遂行しますが、そこには「警察にバレたくない」という様子はなく、むしろ捕まえてほしいとすら思っているくらいの雰囲気を持っています。

もちろん警察も「こいつの周りで事件が多発しているから、こいつを捕まえたい(でも証拠がない)」という感情を持っており、その中には特別な存在とも呼べる刑事の存在があり、この刑事には主人公の能力が通用しないという設定です。

思い込ませることが通用しない刑事に追われ、果たして不能犯は捕まってしまうのかどうか。毒を飲んだと勝手に勘違いして死ぬ人に対して、殺人罪が適用できるのかどうか。注目して読んでみてほしいと思います。

不能犯を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)

コミックス1巻を読んだ感想・レビュー

大まかなストーリーとしては「復讐屋」のそれです。誰かに依頼されて、その人物にとっての邪魔者を消すという…昔ながらによくある要素にプラスワンとして「直接的に殺すのではなく、相手が勝手に死ぬようにマインドコントロールする」というような不気味な要素が加わっています。

例えば足をぶつけて絶対に大変なことになっている(血が出ている、変色している)と思ったのにズボンをまくったら至って普通だった、普通だったのを確認したら「思ったより痛くないかも」みたいな経験は誰しも経験があるのでは?それの逆バージョンって考えたらあながち無くもないんじゃないかと。

リアリティという面でも完全否定できないし、物語全体がとにかく不気味です。この主人公が捕まるのかどうか、捕まるとしたら証拠が出るのかどうか序盤から目が離せません。

コミックス全12巻を読んだ感想・レビュー

物語は全12巻で綺麗に完結します。物語の序盤にあった不気味さも最後まで失われることなく、最後まで駆け続けた作品と言っていいでしょう。

個人的に気になった点は「大半の人が予想できる結末だったんじゃないか?」という点です。最初の頃に「主人公って警察に捕まるのかな」とか「あのライバル刑事も殺されちゃうのかな」とかワクワクして読んでいた展開が、物語が進むにつれて徐々に先細っていき、フィナーレの二、三歩手前で結末の予想がついてしまうという…。

「もしかしてここでも結末に裏切りがあるのでは?」と期待した最後のどんでん返しもなく、ちょっとしたモヤモヤが残ってしまった感はありました。でも物語全体としての中毒性は抜群だし、サイコサスペンスとして非常に面白い作品だと思います。最後にちょっとした謎を残して終わるあたりも余韻があって良かったです。

あとがき

不可能ではないから不能犯?