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「千年万年りんごの子」を読んだ感想・レビュー

千年万年りんごの子表紙
Ⓒ千年万年りんごの子

田舎にはそこの住民しか知らない古くからのしきたりがあるケースも珍しくありません。その田舎で生まれ育ったという人にとっては当たり前のことでも、外から来た人にはそれが理解できないこともあるでしょう。

極端に言えば「なまはげ」だって知らない人からすれば山賊みたいなもんですからね。鬼の仮面を付けて刃物を持った男たちが家に入ってきたとなれば、何らかの事故があってもその責任を問う時に変な気持ち悪さが残ります。

本作はそんな感じの田舎における禁忌を破ってしまった婿養子の物語です。というわけで今回は、りんごの村で巻き起こる古いしきたりを描いた「千年万年りんごの子(全3巻完結済み)」を紹介します。

物語の設定に関するネタバレがあります。

千年万年りんごの子のあらすじ

親を知らない夫。りんごと育った妻。夫婦は、りんごの村の禁忌を破った。――雪深いりんごの国に婿入りした雪之丞(ゆきのじょう)。昭和の激動から離れ、北の家族と静かに巡る四季は親を知らない彼の中になにかを降り積もらせてゆく。それは冬、妻の朝日(あさひ)が寝込んだ日。雪之丞の行動が、りんごの村に衝撃を与えた。りんごの時間が動き出す、田中相初連載作!

千年万年りんごの子の見所をチェック!!

お見合いを経て田舎に婿に行く主人公

千年万年りんごの子1
Ⓒ千年万年りんごの子

本作は早く家を出たい男と、実家のために婿が欲しい女のお見合いから始まります。この両者はメリットが合致してトントン拍子で結婚することになるんだけど、本来の少女漫画なら10巻かけてやるようなことをほんの数ページで終わらせるという展開です。

男は血の繋がった両親に育てられたのではなく、このことで肩身の狭い思いをしてきました。育ての親は非常に良くしてくれたみたいなんだけど、さすがに遠慮とか引け目みたいなものがあったんでしょう。一刻も早くこの家から出たいと考えるようになります。

そこに見合いの話が来て、相手が「婿に来てほしい」なんて言うもんだから即座に結婚を決めるっていうね。恋愛関係をすっ飛ばしての結婚ということで、今後の夫婦の関係性に注目です。

りんご農家の生活に慣れてきた矢先の出来事

千年万年りんごの子2
Ⓒ千年万年りんごの子

田舎での暮らしに少しずつ慣れ始めてきた頃、りんごの配達を終えた帰りに吹雪に襲われてしまい、そこで立派なりんごの木を見つけた主人公。二月の半ばにもかかわらず葉も落ちていないその木は、妙に神秘的な空気を放っていた様子です。

ちょうどって言ったらアレだけど家には風邪をひいてしまった妻がいて、もぎたてのりんごを食べさせたいと思った主人公はこの木からりんごを取って持ち帰ってしまうんですよね。良かれと思ってやったことなんだけど、結果的にはここから激動の歯車が動き始めると言っても過言ではありません。

普通だったらせいぜい「それ人の家のりんごだったらどうするの?」くらいの心配事じゃないですか?実際は「窃盗で済むならその方がずっと良かった」と思えるくらいの出来事へと発展していきます。

村の禁忌を破ってしまった主人公

千年万年りんごの子3
Ⓒ千年万年りんごの子

田舎の村って割と高確率で伝承とかしきたりみたいなことがあるんじゃないかと思います。外から来た者としては「それ先に言ってくれよ!」って思うやつ。

主人公が取ってきたりんごは確かに私有地の物ではなかったんだけど、いわば神様の木みたいなものから取ってきたりんごということで、村の掟を破る行為にあたります。そしてこれを主人公が食べてりゃまだ良かったのに、結婚したばかりの妻に食べさせたもんだからまたややこしくなってるっていうね。

東京から婿に来て事情を知らない主人公もそうだし、事前に説明をしていない村人たちもそう。しかも主人公は100%善意で妻に食べさせているってことも分かるから、これまたやり場のない怒りみたいなのが出てきて何とも言えない空気に包まれるんです。

この禁忌を犯してしまった主人公とその妻、そして村の行く末は大きな見所と言っていいでしょう。

千年万年りんごの子 全3巻を読んだ感想・レビュー

とにかく最初から最後まで切ないという感じの全3巻でした。ぶっちゃけ誰も悪くない感じがするんですよね。

しいて言えば説明を怠った村人たちが悪いって話にもなるんだろうけど、そもそも村に新しい人が入ってくることはそんなにないから新参者に対して説明するっていう仕組みも出来てないだろうし、村の中ではもう当たり前になってるようなことだからついうっかりっていう部分も理解できるし。

あと根底には「それ私有地だったら窃盗だからね?」っていうのもあって、主人公にもやや落ち度があるっていうのがまた何とも言えない要素になっていると思いました。

最終的にこの夫婦がどうなるのか、ぜひ多くの方に見届けてもらいたいと思える素敵な作品だったと思います。

あとがき

仕事とかでもそうだけど「それ先に言ってー」ってやつはマジで複雑。