個人的なことを言うと、短編集の中にある幾つかのエピソードを読んで「表題に選ばれてるエピソードよりもこっちの方が好き」っていうケースが多く、良く言えば代表作以外にも面白いのがあるって言えるけど、悪く言えば代表作が期待値を上回ってこないとも言えます。
ちなみに本作の代表作はドンピシャでした。放浪世界、最高な物語です。というわけで今回は、放浪したくなる心地良さの短編集『水上悟志短編集「放浪世界」(全1巻完結済み)』を紹介します。
水上悟志短編集「放浪世界」 あらすじ
少年の頃、世界の全てだった団地…でもそこは…!!? 出口も入口もない虚無の旅…その先に待つ衝撃の真実とは…。水上SFの新たなる金字塔「虚無をゆく」を含む全5作収録の待望短編集!!
水上悟志短編集「放浪世界」のエピソードを軽く紹介
竹屋敷姉妹、みやぶられる
普通の双子は「そっくり」と言われることに慣れていて、というか慣れすぎていてもはや飽き飽きとしているのは想像に容易く、おそらく大半が「そっくりとは言われたくない」という感情を持っているのではないかと思います。
しかしながらここに登場する双子は、趣味が双子というほどの2人でゆくゆくは同一人物になりたいと思っている双子。学校でも違うクラスなのにもかかわらず入れ替わって、先生や周りのクラスメートを観戦に騙せていると思ってたら1人の男の子にバレていたという話です。
退屈な日常に飽きてきたから刺激を求めるという意味で学校で入れ替わっていたんでしょうが、それも当たり前になりかけていたところに新しい刺激が発生したという感じでしょうか。全体的にほのぼのしていて緩い空気感が魅力的なエピソードです。
今更ファンタジー
みなさんは願い事が3つ叶うと言われたら何をお願いしますか?こういう話をしてると「願いを4つにしてくれ」というアヴドゥル(ジョジョ参照)みたいなことを言い出す人もいるかと思いますが、そういうズルは無しで。あと宝くじの高額当選も無しで。
このストーリーは電車で席を譲ったおばあさんから願いが叶うというランプを貰ってあれこれ悩んだ挙句、子供の頃の夢を叶えるという話です。明確に子供の頃の夢を覚えていればいいけど、じゃなきゃ結構危険なギャンブルになります。宇宙飛行士じゃなくて宇宙飛行機っていうパターンもあるからね。
ゆったりではないけどほのぼの系で、人によっては教訓みたいなものが得られるような感じの物語になっています。ここで何をお願いするかによって、これまでの人生で得られたものが分かるのかも。
虚無をゆく
元々はこの短編集のタイトルにある「放浪世界」というタイトルを持っていた物語です。表題に選ぶくらいの物語なので、この短編集の中でも1番重厚でボリュームも多いエピソードだと思いました。
簡単に説明すると「戦闘ロボの頭の上に人が住んでいる団地がある」という設定で、そこに暮らす1人の少年の物語です。これがまぁ設定といい意外性といい、めちゃくちゃ完成されていて面白い!
団地がトランスフォームしているというか、自分が住んでいる所が基地みたいな設定にわくわくするし、時折出現するという怪魚の存在も気になります。そして何より「ここがどこなのか」みたいな謎が徐々に明かされていく爽快感がたまりません。これはマジでおすすめ。
水上悟志短編集「放浪世界」を読んだ感想・レビュー
5つのエピソードが入った短編集で、上記で紹介した3つの他には「まつりコネクション」と「エニグマバイキング」が収録されています。どれも素敵なエピソードですが、何と言っても「虚無を行く」が最高。
短編集の中の1作品という目で見ても完璧すぎる完成度なんだけど、個人的にはこれで1冊にしてほしいと思うくらい気に入りました。SFのワクワク感、物語の世界観や読了感、どれを取っても高水準で装備されていて欠けている部分がないです。もっと読みたい、ただそれだけ。
あとがき
心はあなたにあるんです…。