世の中には色んな食べ物があって、カニとかエビって今だから美味しそうに見えるけど最初にこれを食べた人って勇気あるなぁって思ったりもします。海鮮系は結構思い切りが必要なのが多いんですよね。
そういう意味では果物ってほぼハズレがない気がしませんか?でも本作の表紙を見たとき、しばらく桃に対して悪いイメージが付きまとったっていう…。というわけで今回は、名実ともに恋の迷宮入りを遂げた古谷実氏の作品「ゲレクシス(全2巻を読んだ感想・レビュー)」を紹介します。
ゲレクシス あらすじ
バウムクーヘン職人・大西たつみは四十路にして初恋に落ちる。だが、その恋の行方は、文字通り迷宮入りに。次々に大西に降りかかる説明不可能な不自然現象。翻弄に次ぐ翻弄で、もはや大西は人とは呼べない存在に。この迷宮から無事に帰還し、再びバウムを焼ける日は戻ってくるのか。
ゲレクシスの見所をチェック!!
古谷実らしさ全開の掛け合い
古谷実氏といえば「行け!稲中卓球部」のような典型的なギャグ漫画から、「ヒミズ」のような笑いとはかけ離れた文学っぽさの残る漫画も有名ですが、それらと比べても本作はかなり異色な部類の作品です。
とは言っても古谷氏ならではの魅力がたっぷり詰まっていて、特に「登場人物同士のユニークな掛け合い」が大きな魅力と言っていいでしょう。ギャグっていうほどギャグでもないし、爆笑こそしないもののクスクスとさせられてしまう魅力というか、まさに「らしさ」が詰まっています。
確かに「元気?」って聞かれたらそれっぽいことを答えてるけど、何を基準にしてなのか何と比べてなのかって考えたことないよね(自分の平均と比べてとか?)。個人的にはこの日常の一風景こそが古谷作品の魅力だと思っているんで、それを堪能できるだけでも最高です。
おっさんの恋物語!?
古谷氏の作品には色んなカラーがあって、中にはこじらせ童貞じゃないけど「ちょっと捻じ曲がった青春」みたいな作品も少なくありません。それを考えて本作を読み始めると「アラフォー男子(おっさん)が恋をする物語なのか!?」って思いがちです。
本作の主人公は若い頃からバウムクーヘン職人として店を切り盛りしてきたという、いわゆるパティシエって言うんでしょうか。見た目はそんな感じが全然しないものの完全にお菓子職人という設定になっていて、若い頃からバウムクーヘンのことばかりを考えていたために恋をする暇も余裕もなかったという感じ。
で、ありきたりな同じ職場の女の子に恋をするみたいな安パイに逃げていないのも「らしさ」全開なんだけど、問題なのは「これが恋愛の物語じゃない」っていう点です。これはマジでやられたって思う読者が続出するんじゃないかと。
読みながらも意味がわからない展開
まぁ表紙の段階で色んなことに気付くとは思うんだけど、まず「全然美味しそうに見えない桃みたいなキャラ」が何なのかって話です。ぶっちゃけ本作を読み終わった後に、何がどう面白かったかを説明するのってかなり難しいんじゃないかと思っています。
確かに古谷氏らしさがあって同氏のファンなら間違いなく楽しめる作風に仕上がってるんです。ただ、じゃあ何が面白かったのかって聞かれるとなかなか難しいっていうね。というか、そもそも「どんな物語なの?」って聞かれて、ネタバレなしで語るのがめちゃくちゃ難しいという感じ。
読んでる最中も「あれ?これっておっさんの恋の話だったような…」みたいな感じになって、冷静になったときに「俺、何を読まされてんの?」とか思うこともあると思います。それを含めて本作の魅力なのかも。
ゲレクシス コミックス全2巻を読んだ感想・レビュー
ぶっちゃけ意味が分からない物語でしたが、こういう体験も悪くないなぁと思える作品。というか「どこでどう考えたらこの物語を漫画にしようって思えるのか」っていう、作者の頭の中が不思議で仕方ないです。
終始ゆるい雰囲気で展開されていき、ギャグっていうほど笑いのある展開でもなく、大きく言えば「シュール」の一言に集約されると思います。でも完全に意味が分からないっていうわけでもなく、なんか不思議なふわふわした感情に包まれる読了感が得られるでしょう。
僕みたいに古谷実氏の世界観に既に魅了されている読者からすれば「これこれ!」ってなる雰囲気のある作品なんだけど、完全に初見の読者にこれが受け入れられるかどうかは微妙な気がします。というより意味が分からない、でもそれが魅力の全2巻でした。
あとがき
生まれたての宇宙、顔面で表現してみて。