ちょっと不思議な雰囲気の物語が好きで、それこそ「世にも奇妙な物語」のようなエピソードがめちゃくちゃ好きです。そして本作に収録されている物語は、どれもがそんな感じの雰囲気に包まれています。
近未来SFっぽい世界観がしっかりと再現されていて、遠くない将来に実現しそうな不気味さも相まって、とても不思議な気持ちになること間違いなし。というわけで今回は、実力派作家・今井大輔氏の珠玉SF短編「セツナフリック(全1巻完結済み)」を紹介します。
セツナフリックのあらすじ
運が数値となって現れる世界「ラッキーポイント」。遺伝子で結婚相手を選ぶ世界「たかが運命」。完全監視の保育システム「完璧な保育」。自分で自分を介護する自己介護ロボット「ピンチヒッター」。そして禁断の疑似体験アプリ「セツナフリック」。実力派作家の珠玉SF短編、表題作ほか描き下ろし含む全8編収録。いつかの未来、異常進化を遂げた世界で人間の在り方は…!?
- ラッキーポイント
- たかが運命
- 完璧な保育
- ピンチヒッター
- 描き下ろし
- セツナフリック
- 電子社会で感じる吐き気と、そこでボクが拾ったモノ。
- バーチャルメモリー
本作は上記の8編が収録された短編集です。作者の今井大輔氏は「パッカ」や「ヒル」が有名。
セツナフリックの見所をチェック!!
ラッキーポイント
ドラクエなんかだとステータスの中に「うんのよさ」っていうパラメータがあって、攻撃をよけられる率なんかに関係していたのかな。いずれにしても人生において運は非常に重要な要素と言えます。
ぶっちゃけどんなに努力を重ねても運に嫌われたら報われない人生になってしまうだろうし、運が良ければ多少さぼっても何とかなりそうな気もするじゃないですか?ただし運は時と場合によって上下するものなので、じゃあこれを可視化したらどうなるかっていうのが本作のテーマです。
自分にとって重要なタイミングで運を投入できるっていうシステムは、興味深くてめちゃくちゃ面白かったです。もともとの数値の大小だけじゃなく、どこでどれくらい運用するかっていう駆け引きなんかも想像を駆り立てられました。
あとこのエピソードの終わり方が超良いんですよね。もしかしたら本短編集の中で一番好きなシーンが、このエピソードの最後かもしれません。
たかが運命
いわゆる婚活アプリ的なものを使った婚活の物語です。遺伝子レベルで相性の良い相手をピックアップしてくれるっていうことで、ここまでくるともう恋愛もただの作業だなーって感じがするんだけど、近未来SFの雰囲気がひしひしと伝わってくるエピソードと言っていいでしょう。
アラサーに差し掛かって結婚を考えてくれない彼氏に業を煮やすというような、割とよく聞く展開から急速に発展していく恋愛ストーリー…恋愛なのかな?ちょっとよくわかんないけど、心理描写に栄えがある物語だと思います。
相性だなんだ遺伝子だなんだ言っても、結婚なんて結局はタイミングでしょ。これはきっとどんなに文明が進化しても変わらないんじゃないかって思わされます。
セツナフリック
本短編集の表題にもなっていて、まさに叙述トリックの最たる例という感じのエピソードでした。簡単に言うと他人の人生を10分間だけ疑似体験できるアプリを使ったストーリーで、誰になってどんな体験をするのかっていうのが大きなテーマになっています。
恐らく「切ないor刹那」みたいなこととスマホのフリックが掛かってるんだろうけど、読了後の後味がなんとも言えない感じで、近未来SFの世界観を存分に発揮できている物語と言えるでしょう。
表題にこれを選んでるっていうのは、今井大輔氏の中でもこれが一番クオリティが高いっていう感じだったんだろうか。個人的にはこれも当然面白かったけど、叙述トリックではありながらもちょっと強引な感じがしたのもあって、他のエピソードの方が好きです。
セツナフリックを読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)
ショートショートや叙述トリック、世にも奇妙な物語のような世界観が好きなら夢中にさせられてしまう短編集だと思います。近未来SFの不思議かつ興味をそそられる設定が秀逸で、最後の最後に待つ粋な演出やどんでん返しがたまりません。
上の方でも書いたけど、ラッキーポイントの最後が本当に良かった!普通に「いい話だなー」って思って読んでて、最後の最後で口角が緩んじゃったというか、これは思わずにやけてしまいました。
というか全体的に面白い話が多くて、捨てるところのない短編集と言ってもいいくらいです。8編も入ってたらどれか無くてもいいって思うのが普通だけど、本作は全部楽しめたと思います。ちょっと不思議な物語で、オチが奇抜というか面白く感じられる作品をお求めの方には特におすすめです。
あとがき
宝くじ買って運を全振りしたい。