僕は2つ目に勤めた会社で「うつ」を発症した経験があります。まぁ実際には「うつ」だったかどうかは微妙だったんだけど、苦手な上司がいて会社に行きたくない気持ちが膨らみすぎて、会社をサボって病院にいって診断書を書いてもらったって感じなんだけど…。
あの時のことを思い出すと今でもしんどいし、もし本作で語られているような粘菌人間という病気があったとしたら、自分は間違いなく発症していたと思います。たぶんそういう人って少なくないはず。
正解のない問題やストレスと向き合うドラマがここに。というわけで今回は、現代社会のストレスを題材にしたドラマチック・ホラー「粘菌人間ヒトモジ(全4巻完結済み)」を紹介します。
粘菌人間ヒトモジ あらすじ
ストレスを溜め込み、粘菌人間へと変質した発症者。はたして発症者は「生還」するか「死亡」するか。粘菌人間になり、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた人間の“生きざま”を鋭く描く人間ドラマが今始まる!!
粘菌人間ヒトモジの見所をチェック!!
生きるか死ぬかの駆け引きが見ごたえ抜群
本作で描かれている病気は「強いストレスを感じることでアメーバ状になる」というもの。そのストレスが軽減されれば元の人間に戻れるし、ストレスが解消されなければ破裂して死んでしまいます。で、破裂した際にまき散らされる胞子に触れてしまうと保菌者になってしまうという感じ。
このルールが非常に良く出来ていて、例えば会社をクビになったというストレスなら別の仕事を見つけるとか、あるいは前の会社に掛け合ってクビを取り消してもらうとか…まぁまぁ復活までのハードルは低いような気がします。クビになった原因にもよるだろうけど、元社員が死にそうだって言えば協力してくれる社長もゼロじゃないでしょ。
でもこれが色恋沙汰とか夫婦関係だとなかなかね。「恋人と別れたい/別れたくない」の押し問答だと、片方のアメーバを治すためにはもう片方がアメーバになっちゃう展開とかありそうだし。話し合いの最中に「やっぱ無理!」ってなれば、その発言が原因で相手が破裂して自分の身が危うくなるし。
特に子持ち夫婦の離婚問題とかは根深そうです。不満があって別れようとしているんだろうから、相手が死のうが関係ないっていう人もいるでしょう。そういう「モラルの反対側」みたいな部分が超面白いです。
結末が読めない感じが面白い
本作は基本的にはオムニバス形式で、様々なエピソードが詰め込まれています。もしこれが一本立てのストーリーだとしたら「最終的には人間に戻ってチャンチャンなんだろうなー」って思うところなんだけど、複数のエピソードがあるおかげで「ハッピーエンドがあればバッドエンドも」という予測不可能な展開が楽しめるのが大きいです。
例えば、ふとした喧嘩で心無い言葉を浴びせてしまい、それが引き金となって病気が発症したんだとしたら、後からストレスが軽減できるフラグも立ちやすいけど、世の中にはどうあがいても解決が難しい問題もあるわけで…。
いわゆる〇〇ロス的なもので大きなストレスを感じたら、もう終わりじゃないですか?「俺のガッキーがぁぁぁ」みたいになったら、もういよいよ救いようがないというか。そういう場合はちゃんとはじけ飛ぶ結末が用意されているのが本作です。ドラマティック・バイオホラーと名乗っているだけあって、多種多様な結末が用意されているのは間違いなく面白い要素だと言えます。
粘菌人間ヒトモジ 1巻を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)
一昔前と比べるとデリケートな部分が非常に増えた世の中になったような気がします。近しいところで言えば精神的な疾患なんかは、今ではちゃんとした病名もできて、治療法が確立されているものもだいぶ増えてきたんじゃないかと。
例えば「うつ」なんかは、今ならだいぶ認知されてきていると思います。これがもし僕の親くらいの世代の人が学生時代に「うつ」なんて言ったら、教師や上司から「根性が足りん!」くらいに言われたんじゃないかなーって思うし。
とは言え、SNSなんかも発達してきて便利になっている一方で、生きにくくなったような気がしないでもありません。たぶんストレスの種類は、一昔前と比べて劇的に増えてると思います(大きさは分らんけど)。本作は、そういう時代にマッチした漫画作品の最たる例だと思いました。
世の中にはびこるストレスの多くに共感できるし、その解決が簡単じゃないことも分かるし。自分が誰かを粘菌人間にしてしまうことがあれば、治せるもんなら治してあげたいし、でも関わりたくない人間がそうなったら救う義理はないし。
とにかく複雑な物語で「心解き放つドラマティック・バイオホラー」は伊達じゃない。道徳的な問題で、意見が分かれるような難しいテーマが好きだという人ならマジでハマると思います。
あとがき
思いつめた先が粘菌人間で、最悪の選択をしてしまう前の過程なら悪くない。