「笑ったり泣いたりっていう場面がないのに、ここまで感情を揺さぶられるもんかね」っていうのが、本作を読んだ率直な感想です。名作を表現する言葉として「涙あり、笑いあり」って言ったりするけど、本作にはそのどちらもありません。
でも心に刺さるセリフやシーンが幾つもあるし、全3巻という決して長くないボリュームには登場人物たちの魂が込められていると言っていいでしょう。というわけで今回は、魂の物語「羣青(全3巻完結済み)」を紹介します。
羣青 あらすじ
殺した女、殺させた女。傷つけ合い求め合う魂の物語。日常的に夫から暴力を受けていた女と、その女を慕い、請われるままに彼女の夫を殺したレズビアンの友人。
殺害現場に証拠を残したまま二人の女はともに逃亡を謀る。明日をも知れぬ逃走生活の先に二人は果たして何を見るのか、それぞれどう落とし前をつけるのか――?極限状況下で震える魂の物語、開幕!
羣青の見所をチェック!!
殺させた女と殺した女の逃避行の物語
現実世界での犯罪でもよく聞く「あいつさえ居なくなれば一緒になれるのに…」という言葉でもって愛人をけしかけ、自分の妻(あるいは夫)を殺させるというやつのレズビアンverです(殺したほうがレズ)。
で、こういう犯罪をしでかす時っていうのは保険金とか遺産が目的だったり、本当に邪魔者がいなくなった後で一緒になるつもりだったり、もしくは配偶者も愛人も自分の目の前から消したいって思って目論むことがほとんどだと思います。
しかし本作の場合は自衛目的というか防衛手段に近く、暴力夫から自分の命を守ることが最優先で、自分に惚れているレズの友人に助けを求めたという感じ。そして殺させた方はレズじゃないし、殺した方に対して明確な見返りは提示していません。
もう完全に惚れた側の弱みで、殺させた方もレズになるつもりはなく…。今後の2人にどのような未来が待っているのか、非常に気になる展開が楽しめます。
主人公たちの過去
いくら好きな相手のお願いとは言っても、現在進行形で交際関係にあるような仲でもない限り、相手の配偶者を殺すっていうのはなかなかじゃないですか?でも過去の学生時代まで遡ってみると「これが原因かな?」みたいな出来事があったりします。
もちろんこれは僕自身の感想であり、作中ではハッキリと描かれていません。このように読者の感じ方や考え方次第で受け取り方が変わるシーンが多く、良く言えば考察しがいのある作風となっています。
というか人を殺してしまって逃避行する場合、過去を思い出すことがあれば「なんで今こんなことになってるのかなぁ」と後悔してしまうような明るいエピソードがあったりするもんだけど、本作で語られる過去は重いものばかり。でもこの重さこそが唯一無二の魅力です。
逃避行の末の結末とは…
逃避行の結末として考えられるのは主に3つ。「自首する」か「最後まで逃げる」か…そしてもう1つ。まぁどれを選んでもしっくりきそうな展開が続くんですが、この判断も含めて読者がどう感じるかって部分も十人十色だと思いました。
そして人を1人殺すっていうことは、こういうことなんだなぁと。漫画だけじゃなしにドラマでもいいんだけど、殺人事件の犯人って意外とあっさりしてるじゃないですか?本作は覚悟や後悔を含め、非常にリアルな心情が描かれている作品だと思います。
愚痴っぽい部分だったり、責任の擦り付け合いだったり…。人間の醜い部分もすべて曝け出したうえで選んだ判断によるエンディングが興味深くないわけがないんです。ヒューマンドラマとして非常に考えさせられる結末が待っているので、大人の漫画に興味がある人にはおすすめします。
羣青 コミックス全3巻を読んだ感想・レビュー
表紙を見ても分かるように、非常に絵が特徴的です。初めて読んだとき、黒髪の主人公の女性が男性だと思ってしまい、物語が進むにつれて「あ、この人は女性なのか」と思ったくらい。そしてキャラクターの区別がぱっと見では付きにくく、主に髪型と髪の色で判断して読みました。
内容は割と重めでシリアスな大人向け漫画という印象です。登場するキャラクターたちの判断や行動に対して、あれこれ思う部分が出てくるんですが、それらに対する考え方が読者によって変わるタイプの作品だと思います。ゆえにもっと賛否が割れるんじゃないかなぁと思ったんですけど、kindleレビューの評価が割と高かったので驚きました。
とりあえず「人によって感じ方が変わる、とにかく複雑な心情が描かれている、終始シリアスで重い」という要素が受け入れられるなら、たぶん本作の魅力をしゃぶりつくせると思います。
あとがき
他人の幸福に、いちいち怯むな。
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