ぶっちゃけ最初は「よくある感じの復讐劇ねー」って印象しかありませんでした。すごく端的に言うと「ある程度死なないで蘇生できる能力を持っている主人公が、死ぬまで燃え続ける炎に焼かれながらも、自分の住んでいる村を滅ぼした相手に復讐する」って物語。
で、復讐すべき相手の能力でもある炎を自分の能力の1つみたいにして、殴りつける拳が「ファイアパンチ」っていうんだから、すっげー分かりやすい話なんだと思うじゃないですか?これが超複雑。ちょっとクセが強くて、好き嫌いはハッキリ分かれるんじゃないかと思うんだけど、個人的には超名作だと思う。
というわけで今回は、奥深い復讐劇「ファイアパンチ(全8巻完結済み)」を紹介します。
ファイアパンチ あらすじ
『氷の魔女』によって世界は雪と飢餓と狂気に覆われ、凍えた民は炎を求めた──。再生能力の祝福を持つ少年アグニと妹のルナ、身寄りのない兄妹を待ち受ける非情な運命とは…!? 衝戟のダークファンタジー、開幕!!
ファイアパンチの見所をチェック!!
村を焼かれ、生き残った祝福者の復讐劇
本作の主人公・アグニは、祝福者と呼ばれる特殊能力を持った人物で、腕を斬り落としても再生する能力を持ってます。その能力を利用して、飢えに困っている村人たちに自分の腕を献上していたっていうね。
もちろんそこに主従関係とかはなくて、昔助けてもらった恩に報いる形で自ら進んでやってたんだけど、それが兵士に見つかって、この村が人肉を食べる村ということで焼かれてしまうという流れです。
村を焼いた相手も祝福者で、その能力は「焼け朽ちるまで消えない炎」。村を焼かれて、自分自身も焼かれて、さらに最愛の妹を失ったアグニが、相手の能力を残したまま復讐の為に立ち上がるっていうのは色んな意味で熱いと思う。
氷の世界に響くファイアパンチ
元々、飢餓が蔓延した理由っていうのが「魔女が出てきて世界が寒さに包まれた」っていう初期設定です。そんな中で復讐の炎を燃やすって、壮大な因果関係みたいなものを感じませんか?
冒頭でも書いたけど、炎に焼かれ続けて握った拳がファイアパンチだからね。果たして炎と氷が戦ったら、どっちに優位性があるんだろう。炎で氷が溶けちゃうって感じになるのかな。
いずれにしても、物語の始まりとしては「妹を殺して、村を焼かれた復讐」って感じなんだけど、そもそも氷の世界を作った人物は他にいるんで、さすがに「世界は寒いままだけど、復讐を果たしましたチャンチャン」とはならないはず。この時点で、物語が復讐劇からどう昇華していくのか。序盤から楽しみで仕方ありません。
復讐すべき相手が想像と違ったら?
自分がアグニの立場になって考えてみると、復讐したい相手はずっとクソ野郎でいて欲しいというか、こっちが復讐に現れた時は「返り討ちにしてやろう」くらいの感じでいて欲しいんです。
何があったか知らんけど、世間的に見てすっげー良い奴になってた時の戸惑いというか、矛先のぶつけ所というか…。「死ぬ以外は何でもする!」みたいな感じで、全面降伏しつつも生きようとされたら、どうしていいかわかんないと思う。
これが単なる命乞いなら「そんなん知るか」くらいの距離間でいけるけど、もし家族がいて、その家族を養っていたりとかして、その娘がかつての自分の妹とダブるとかになったら…。
怒りは怒りとして絶対的なものなんだけど、「今度は自分がコイツみたいになってしまう」とか考えたら、復讐が正解なのかどうかって分からなくないですか?果たして、アグニはどうするんでしょうね。
ファイアパンチを読んだ感想・レビュー
ネタバレにはある程度配慮しますが、Wikipediaとかに載るような大まかなあらすじなどには言及しています。
コミックス1巻を読んだ感想
「復讐の炎を燃やす」ってワードは何度も聞いたことがあるけど、本当に炎に包まれているって設定は斬新すぎる。というか、本人の能力は「腕を斬られても蘇生できる」的な能力で、復讐すべき相手の「命を奪うまで燃え続ける」的な能力を自分のモノにしているって展開が胸熱。
傷付いた身体が治癒するっていうだけで、別に痛みがないわけでもないらしいから、憎むべき相手の炎に焼かれ続けることで、自分の怒りも風化させないようにするっていう一種の覚悟というか…。
そもそも世界を極寒に変えたという元凶がいて、その下に復讐相手がいるって流れだから、復讐して終わりってわけでもなさそうだし、「世界は平和になるの?」とか「復讐を遂げたら炎は消えるの?」とか、色々気になる要素が多々あります。とりあえず正統派ダークファンタジーという感じ。ただのファンタジーじゃ満足できない人におすすめです。
全8巻を読んだ感想
序盤を読んだ時は「正統派ダークファンタジー」って思ったけど、良くも悪くもクセが強くて、少なくとも正統派ダークファンタジーではないです。
正統派の流れを汲んでいたのは本当に序盤だけで、少ししたら謎要素が入ってくるし、中盤に差し掛かる頃には「復讐とは?」みたいな話になってくる。そして終盤にはもう哲学的な話になってきたりして、語彙力が少なくてアレだけど「言葉では形容できない感情に揺さぶられる」みたいな感じ。
本来のダークファンタジー作品って、いくら内容が深いと言われていても、大筋の流れは分かりやすいストーリーになっていて、その中でのキャラの心情風景とかに深さがあるってパターンじゃないですか?本作の場合は、分かりやすいのはタイトルのネーミングだけで、そもそもこれは復讐劇だったのかどうかすら危ういです。もっと言うと「生きるとは?」みたいな、壮大なテーマと言っても過言じゃないです。
万人におすすめできる感じの物語じゃないけど、好きな人は絶賛するであろう唯一無二の価値観がある作品です。個人的には「ジャンプ向きじゃないけど、ジャンプで連載してここまでの人気を誇ったんだから、相当な名作と言ってもいいのでは?」と思ってます。
あとがき
タイトルの分かりやすさとは打って変わって、内容の奥深さよ。
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