タイトルと表紙の絵が「なんとも不気味で興味をそそられた」というのが入口です。最初は「ホラー漫画に奇をてらったタイトルを付けたのかな?」なんて思ってましたが、中身を読んだらこのタイトルには納得しました。
ホラーではなく、漫画というよりは表現の仕方が文学作品に近い。そんな不思議な漫画作品と言えるでしょう。不気味な雰囲気と文学的な崇高さのコントラストが光る一作です
というわけで今回は、天才小説家が人間の真理に迫る物語「悪童文庫(全1巻完結済み)」を紹介します。
悪童文庫 あらすじ
注目を浴びると同時に姿を消した天才小説家がいる。彼は町はずれにある小さな古書店「悪童文庫」の店主となっていた。
そんな彼は儲け話に対する執着がなく、名作「蠢動」を世に輩出してからは、一切の執筆活動を行っていないと言う。しかもその作品も、小説にするために書いたわけではないらしい…。
その作品に魅せられた1人の出版社社員と天才小説家が繰り広げる、人間の真理に迫る物語。これを読んだ者は、天才小説家の言うことを容易に理解するだろう。
「愛情、執着、憎悪、焦燥、恐怖、憧憬…。それらが高まり孵化する瞬間は、蠱惑的で美しい」と。
悪童文庫の登場人物
秋里 こだま
冬陽出版の新米編集者。「蠢動」という小説に魅せられ、いつかは自分もこのような作品に携わりたいと思っている。
ある時、偶然にもその蠢動を書いた作家と出会い、自分のサポートで彼が新作を執筆してくれることを夢見ている。
鳥羽山 真理
小説「蠢動」で流星の如く現れ、そのまま姿をくらました天才小説家。今は塵保町の町はずれにある古書店・悪童文庫で店主をしているが、偶然が重なって秋里と出会った。
他人に対する観察力や、他人の心の底をえぐる能力に長けており、一般的には醜いと言われるような人間の様々な感情に対して「美しい」という感性を持っている。
悪童文庫の見所をチェック!!
イキっている人物を完膚なきまでに叩きのめす
ちょっと調子に乗っているような人物(芸人の小藪さんの言葉を借りると「イキってる奴」)を、完膚なきまでに叩きのめすという爽快感が味わえます。ディベートとか他人を論破するのが好きな人ならハマるんじゃないかと思う。
一方的に小説家が難しい言葉を並び立てて、当事者がどんどん追い込まれていくってパターンが多いので、僕みたいに頭の悪い読者だと置いてけぼりを喰らうけど、これを読んでいるあなたなら大丈夫。僕の拙い文章を理解できるなら、この物語も絶対に理解できます。…というわけでおすすめ。
回りくどくも重い言葉たち
例えば女々しいって言葉があるように、男性よりも女性の方がネチネチした言い回しをすることが多いわけだけど、女々しいって言葉を使われる対象は男性なわけで、男性がネチネチした言い回しをしだしたらもう手に負えないんじゃないかと。
そんな雰囲気を思わせる言い回しが多々出てきます。「結局、何が言いたいの?」みたいな。
例えば「色んな人から注目を浴びたい女性が、わざと自分を傷付けてそれをストーカーのせいにする」なんて展開は、他の漫画やドラマでも何度か聞いたことがあるシチュエーションです。
そういう女性の嘘を見抜いて、説教するとするじゃないですか?もうね、これ以上ないってくらいネチネチ責めたてるんですよ。これ、多分好きな人はすごくハマると思います。「ちょっと遠回しに嫌味が言いたい」という人には持ってこい。
悪童文庫を読んだ感想
難しい感じがいっぱい出てきて、表現的にも小説っぽいのが多い。「蠱惑的」ってなんやねん。フリガナ無けりゃ読めねーわ。
でもそういう頭の堅さというか堅苦しさみたいなものが、本作の主人公が醸し出す不気味さに繋がっていて、なんとも言えない空気を演出しているように思います。
最近だと人がバンバン死んでいく物語が多くて、あっさりしすぎて逆に怖くない的な部分があるじゃないですか?本作は恐怖って意味での怖さはないんだけど、とにかく不気味。人が死んだりしないし暴力的な描写もほとんどないのにこの不気味さが演出できるってのは、まぎれもなく言葉選びの賜物じゃないかと思うんですよね。
本当の小説好きからしたら「こんな陳腐な表現が小説だなんてチャンチャラおかしい」とか言う人も出てくると思うけど、普段から漫画しか読まない僕にとっては、国語の教科書とかで見た文学作品に通じる蠱惑的な魅力を感じました。
あとがき
悪童ってあんま良いイメージが湧かないけど、マッケンローとかイブラヒモビッチとか、そう呼ばれる人にはカリスマが多いよね。
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