ファンタジーあるあるを茶化したり、笑いに変えてきた漫画は少なくありません。多くの人が「あるある!」って言ってしまうようなネタの宝庫だし、割とワンパターンな部分も多いからね。
でも現在の漫画事情としては、それを単に漫画化しただけで売れるような甘い世界でもないわけで…。今までの漫画になかった工夫か何かが無いと、簡単には売れないんじゃないかなぁって感じる部分も否定できません。
そんな中、満を持して出てきました。本来なら「魔王を倒すために引き抜かれるだけの剣」が、喋るしボケるしでてんやわんやのギャグ漫画の登場です。というわけで今回は、単なる出オチじゃ終わらない、剣が主人公のギャグ漫画「邪剣さんはすぐブレる(全11巻完結済み)」を紹介します。
邪剣さんはすぐブレるのあらすじ
剣が主役の“ある意味”異世界無双ギャグ!しゃべる!空飛ぶ!光線出す!?これがファンタジー最強の剣だ!!
勇者とか魔王が活躍する、実にファンタジーな世界「ファンタジア」。そんな世界も、急速な技術の進歩には勝てず、時代は「剣と魔法とスマホの世界」に…
だが、すっかり平和になった「ファンタジア」の二人の兄妹の元に、“ヤツ”は突然現れた!王道ファンタジーに鋭くツッコむ、“異世界”舞台で“転生”しないけど、ある意味“無双”な不条理ギャグ!!
邪剣さんはすぐブレるの見所をチェック!!
無さそうで無かった感じのギャグ漫画
これまでにも勇者とか魔王がいるファンタジーな世界を題材にしたギャグ漫画は数多くありました。ぶっちゃけ出し尽くされた感みたいなものも感じていて「こういう世界観ってもう飽和してんじゃね?」くらいに思ってたけど、その考えは甘かったです。
本作はファンタジーな世界の中で、喋る剣が主人公のギャグ漫画。納屋で家族に内緒でコソコソやることと言えば大抵は「捨て犬、捨て猫の類を拾ってきた」っていう感じだろうけど、まさか剣を拾ってくるとは…。
しかもすごくメルヘンチックな世界観の中に変に現実味を帯びている部分があったり、やたらフランクで関西方面の方言を喋る剣がいたり…。あれこれ世界観のバランスが崩壊している部分が、上手く笑いになっていると思います。
絵の才能の無駄遣い
本作を描いているのは飛田ニキイチ氏。かつて「しのびがたき」っていうダークファンタジー作品を描いていたんだけど、この時から絵の上手さに定評があって、しのびがたきでは線が細かくて迫力満点なバトルシーンが魅力的でした。
…が、今作では木と木の間を飛び回りながら手裏剣を投げるシーンもなければ、ぶんぶん鎖鎌を振り回しながら相手の隙を伺うなんてシーンもないわけで…。言ってみれば、絵の才能の無駄遣い感がハンパない。
その才能が顔芸としてしか発揮されていない部分とか、やたら表情が豊かな部分とか、一周回ってめちゃくちゃ笑えて来るからね。やっぱ絵が上手な漫画家さんだと、ギャグ漫画を描いても得するなーって思いました。
変にリアリティとファンタジーが融合している世界観
本作には「剣と魔法とスマホの世界」という設定があって、ファンタジー&メルヘンな世界なのに変に現実味を帯びている部分があります。SNSが発達しすぎて、ファンタジー部分にダメ出しが入るようになったっていう設定がめちゃくちゃ秀逸。
しかもその対策法が「今のノリを生かしたまま上手いことやっていきましょう」っていう漠然としたものだから笑わずにはいられません。まるで大人の事情を汲んだ演出しまくりのバラエティ番組のような感じ。
そんな世界でガラケーを使っている兄弟が主人公っていうのも魅力的だし、魔王とか悪魔がいるような世界で訴訟をチラつかせる世界観なんか無茶苦茶でしょ。ファンタジー部分と現実部分のバランスが抜群に面白いギャグ漫画です。
邪剣さんはすぐブレる 1巻を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)
絵がうますぎる、世界観が斬新すぎるで一挙両得的なギャグ漫画だと思いました。ファンタジー漫画あるあるを皮肉っているというか、剣と魔法の世界のあるあるを逆手に取っている部分がうますぎます。
これまでにファンタジー作品を多数読んできた人とか、そういうゲームが好きだって人なら、思わずニヤけてしまうシーンが溢れているので、そういう人にはぜひ読んでもらいたいと思える作品です。
「しのびがたき」を読んだ読者なら、同じ世界観(和風ファンタジーとか)の新作を読みたかったって人も多いだろうけど、個人的には「ギャグはギャグでアリだなぁ」って思いました。どうやって収拾つけるのかは分からないけど、この先の展開にも期待しています。
あとがき
このスタイルだけはブレずに描き切って欲しい。