楽器でもスポーツでも何でもいいんですが、幼少の頃から英才教育を叩き込まれていれば、大抵のものはそれなりに上手くなるでしょうし、その中の一部は「神童」として持て囃されるでしょう。
でもその中の多くの子供たちは強制的にやらせれていると感じたり、他のことに興味があって辞めてしまうケースも珍しくないはず。というか神童っていうのは、そういうレベルの話じゃないんだと気付かされました。
世の中はすぐに神童だとか「美人すぎる~」とか言い出すのでご注意ください。というわけで今回は、ピアノの音が聴こえてくるような音楽漫画「神童(全4巻完結済み)」を紹介します。
神童のあらすじ
はねっかえりだけど、可愛くて憎めない天才少女ピアニスト・うたが奏でるさよならの音、初恋の音、嫉妬の音、失恋の音……どんな音だと思います? ページをめくれば心に鳴り響く不思議で切ない物語! 天賦の才能で世界のピアノ界に華々しくデビューする『神童』と呼ばれた少女の努力の過程を描いた感動の物語。
神童の見所をチェック!!
一目惚れならぬ一耳惚れ
恋愛漫画の導入では「一目惚れ」が珍しくありません。なら音楽漫画の導入で「一耳惚れ」があってもいいじゃない?…とでも言いたげなスタートを切る音楽漫画です。題材になっている楽器はピアノになります。
個人的には弦楽器や管楽器とは違って、鍵盤には強弱しかないと思っていました。もちろんピアノの演奏技術が強弱だけで決まるとは思っていませんが、特定の音を出すという一点に関して言えば「誰が弾いても強弱の違いしかない」という考えです。だからAさんの音とBさんの音が違うという意味が分かりません。
そんな僕が「屁理屈並べやがって」みたいな憎まれ口を叩かないくらいに、説得力のある見せ方をしてくれるのが本作です。たぶんそれこそが神童なんだろうなと思わされてしまいます。
天才集団の中でも一際目立つ存在=神童
本作には主たる登場人物が何名か登場するんですが、その中でもワオと呼ばれている男子学生と、うたと呼ばれている野球大好き少女がメインの物語となっています。
ワオは八百屋の息子で特にメンテナンスも施していないピアノを弾いています。そのピアノをうたが弾いた時の音を聴いて「自分の技術が上達しないのはピアノが悪いんじゃなくて自分のせい」ということに気付くんです。
ちなみにワオも紛れもない天才の一人で、ムラッ気こそあるものの一目置かれているピアニストであり、有名音大に主席で合格しています。というか、うたの周りにいる人物は基本的に天才だらけなんです。その中でも一際目立っているうたは、まさに神童と呼ばれるべき存在なのでしょう。
音と一緒に紡がれていく運命
幼少の頃から当たり前のようにピアノを弾いてきた天才がいたとします。当然のように毎日ピアノを触るのが習慣になっていて当然ピアノを弾くのが上手です。
この天才がやむを得ない事情でピアノを取り上げられたとき、ピアノに触れていない時間が長ければ長いほど、技術が失われていくのも仕方ないことだと思います。しかし神童はピアノがなくても音と触れ合うことはやめないっていうね。
風の音を聴いたり、りんごを叩いた時の音を聴いたり…。ベートーヴェンは耳が聞こえなくなったと言われていますが、たぶん神童ってそういうレベルの人なんだろうなぁと。本作で描かれている神童がどこに向かうのか、きっと街で一番のピアノ少女に留まらないことは想像に容易いですが、どこまでも見届けたいと思わされる物語です。
神童 全4巻を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)
何が面白いかって言われると難しいけど、ピアノに興味がなくても引き込まれてしまう魅力がある漫画です。ライバルの嫌がらせみたいな分かりやすい展開もなければ「分かる人が分かればいい」というような芸術家特有の傲慢さみたいなものも感じません。
周りの大人たちがとにかく「この子はすごい!」という感じで騒いでいるのに、当の本人は野球をやっていて素手でボールを取ったりしてるっていう…。なんなら「これ野球漫画だっけ?」ってくらい序盤は野球のシーンが多いんだけど、ここにも神童らしさが溢れているんですよね。
全4巻で一気読みできるボリュームだし、物語全体を通して心地良さが溢れている物語だと思います。特に大きな煽りとかがないので淡々と進んでいく感はありますが、これこそが音楽界の神童なんだと知らしめる存在感が堪能できるでしょう。
ちなみに本作が気に入った場合は、同じくさそうあきら氏が描いている「マエストロ」もおすすすめです。こちらは天才指揮者の元に、解散したオーケストラが再集結するという感じのストーリーとなっています。
あとがき
本物が弾けばそういう音になる。