本作がリアルタイムで持て囃されていた時、僕はまったく興味を持ちませんでした。というのも「ちょっとインパクトがあるタイトルを付けて、旦那と上手くいっていない主婦層を取り込もうとしているのでは?」と思ってしまったからです。
で、時間が経ってからKindleページを覗いてみると、かなりの高評価(1巻はやや厳しい意見も多かったけど)。「これは読むしかない!」ということで読んでみたところ、タイトルから連想されるようなゲスさとは程遠い物語でした。
というわけで今回は、普通でいられることの幸せが重くのしかかる「夫のちんぽが入らない(全5巻完結済み)」を紹介します。
夫のちんぽが入らない あらすじ
発売即13万部を突破し、各メディアやSNSで大反響を呼んだ衝撃の私小説『夫のちんぽが入らない』(こだま・著)。繋がれない痛みの中で懸命に生きる女性の半生を、『R-中学生』『水色の部屋』のゴトウユキコが鮮烈コミカライズ!学校、社会、そして男女の関係。様々な場所において彼女を苦しめたのは、「普通」という名の「呪い」だった――。生きづらさを抱えたすべての人達に捧ぐ、絶望と希望の人生譚が幕を開ける!!
夫のちんぽが入らないの見所をチェック!!
物理的に入らない様子
個人的には「結婚してから10年ほど経った中年夫婦による、特に妻側が夜の生活が受け入れられない」という意味での『夫のちんぽが入らない』だと勘違いしてました。昔は好きだったけど今は冷めていて、異性として見れないし、入らないのではなく受け入れたくないという意味なんだろうと。
しかしそれは全くの間違いで、読んで字のごとく物理的に入らないという意味みたいです。ご本人もなぜ入らないのかという部分には詳しく言及していませんが、恐らく相性的なものかと思います。
もちろん交際している段階で性交渉ができないことを知ったうえで結婚しているわけですが、交際している時のストーリーから始まっているので、彼女としての焦りみたいなものを強く感じました。これを見たら、周りのカップルが言う不満のほとんどが贅沢に映るはず。
交際期間を経て結婚へ
どこにでもいそうなカップルがありきたりな恋愛をして結婚を決意するという…。どこにでもありそうな展開が、まさかの「ちんぽが入らない」という1点のエッセンスのみでバズる時代です。それもそのはず、このような問題を抱えていて結婚するっていうのが割と珍しい事例だし、新婚なのにあんまり幸せそうじゃないっていうか、2人の様子を見ていると夫婦のリアルが垣間見えるんですよね。
結婚って夫婦生活のスタートなのに、明らかにそこが人生のピークになっている人が多すぎると思うんです。その後、子供が生まれて徐々に相手の愚痴を友人・知人にこぼすようになり…っていうのが普通の夫婦なんだとしたら、本作の主人公たちは明らかに普通じゃない。
タイトルだけを見ると「熟年カップルの日常」みたいな感じに捉える人が多いのではないかと思いますが、大学で出会ってから交際を重ね、そして結婚してから~という流れで描かれています。カップルから夫婦になるまで、そして夫婦になってからの期間には様々な困難があるものの、当初から抱えていた問題が時間によって解決されずに残り続けているっていうのはかなり厄介なものだと痛感させられるでしょう。
共感者も多いであろう現代社会の生きにくさ
今はどうなのか知らないけど、僕が中学生の時の英語の授業では「既婚女性にはミセス、そうでない女性にはミスを使いましょう」みたいに言われてて、「結婚してるかどうかってそんなに重要なの?」と思った記憶があります。今の時代にそぐわない気がするから、そういう風習はもうなくなったって言われても驚かないけど。
そんな感じで、今の時代も少子化だとは言いながらも出産や育児に関して寛容な世の中とは言い難いと思います。産休とか育休も少しずつ変わってはきてるんだろうけど、ケースバイケースという感じ。
そりゃちんぽが入らないんだから子供ができるわけもなく、それを赤の他人が「そのうちできるかもしれないでしょ」みたいに土足で入ってくることを考えたら、当事者じゃなくても腹が立ちました。こういうデリカシーの無い人って意外と多いので、夜の営みという部分以外でも共感できる場面が多々あります。
夫のちんぽが入らない 全5巻を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)
まず読む前に持っていた先入観がことごとく覆される漫画でした。子供がある程度大きくなってまでラブラブな夫婦の方が少ないとは思うんだけど、奥さんが旦那に対して「稼ぎが少ない、顔を見るのも嫌、くさい」とか不満を重ねていった結果、もう夜の営みは無理って話かと思っていたので。
ぶっちゃけ妊活で悩んでいる夫婦は世の中にたくさんいると思いますが、ちんぽが入らないという段階で悩んでいるという人は稀有な例でしょう。子供が絶対に欲しいって考える人だと、結婚しなかったという判断もあるだろうし、結婚後も考えを改めて別れるって判断をする人だって少なくなさそう。
そういうのを全て受け入れたうえで、世間の風当たりにも耐えて乗り越えていく夫婦の姿みたいなものが描かれていて、純粋に「うらやましい」って思える部分もありました。子供がいたって幸せな家庭ばかりじゃないんだから、子供がいなくたって幸せな家庭だってあるでしょ。
そこにズカズカと土足で踏み込んでくるデリカシーのない外野も、情報をアップデートして「誰もが生きやすい世の中」みたいなものになればいいなぁと考えさせられた漫画です。少なくともタイトルのインパクトだけで注目を集めようとしたゲスい下ネタ漫画というわけではないので、気になる人は手にとってみることをおすすめします。
あとがき
早い、遅い、上手い、下手は二の次。