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「ガンニバル」を読んだ感想・レビュー

ガンニバル
Ⓒガンニバル

幼少の頃、海で遭難して脱水症状になるという意味が分かりませんでした。「海水飲めばいいんじゃねぇの?」って。もちろん大人になるに連れて色んな情報が入ってくるので、海水をそのまま飲むことで脱水症状が改善するわけがないということを知るわけですが。

これは授業で教わったわけではなく、実際に自分が身をもって体験したということでもなく、あくまで自然として身に付いた知識です。それと同じで「餓死寸前になったとき人の肉を食べることは可能か?」という部分について、はっきりと答えられる人ってどれくらいいるんでしょうか。

クールー病とは言うものの、世界は広いので「どこかに食人文化があるのでは?」という疑問は捨てきれません。本作はそんな食人文化を持っている村の物語です。というわけで今回は、人食い人間が住み着く村のサスペンス「ガンニバル(全13巻完結済み)」を紹介します。

ガンニバル あらすじ

山間の村「供花村」に赴任してきた駐在・阿川大悟。村の人々は大悟一家を暖かく受け入れるが、一人の老婆が遺体で見つかり、大悟は村の異常性に徐々に気付き、ある疑念に囚われる…。「この村の人間は人を喰ってる」──。次々と起きる事件、村に充満する排除の空気、一息も尽かせぬ緊迫感で放つ、驚愕・戦慄の“村八分”サスペンス堂々開幕!!

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閉鎖された村社会における他人を受け入れない空気

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Ⓒガンニバル

文化の違いって恐怖を伴う場面が多いと思うんだけど、特に田舎は閉鎖的というか「よそ者は受け入れない」みたいな風潮が強い所も珍しくありません。僕が住んでいる田舎もちょっと山の方に行けばよそ者を受け入れない空気感が強くて、言葉訛りがないとめちゃくちゃ警戒されたりします。

本作の舞台になっている村もまさにそんな感じ。主人公は警察官だから転勤で仕方なく来させられたという流れで、しかも前任者が精神崩壊を起こして失踪したという流れ。「もしかしたらこの村の人たちに殺されたのでは?」という疑念が晴れないまま、徐々に真相が明かされていきます。

警官に対して猟銃を突き付けるという行為は、まぁ冗談でも決して許されない行為だとは思うんだけど、そういう行為が許されてしまう空気っていうのかな。治外法権と言っていいほどの閉鎖感に恐怖を感じずにはいられないでしょう。

雰囲気的な気持ち悪さと物理的な気持ち悪さの両立

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本作の舞台が極めて異質な点は、村で死人や行方不明者が出たときにそれは熊に襲われたという前提になるような村であることです。一般論からすれば「それって本当に熊に襲われたの?」という考えになるんだけど、それを口にしてしまうと猟銃を突き付けられて「じゃあ村の誰かが殺したっていうのか!?」と詰め寄られてしまう感じ。

これだけでも恐怖を感じるのに、その人を喰ったという熊を狩ってそれを食べるという文化があったら…。それって気持ちの良いものではないですよね。極端なことを言えば「熊のお腹を切ったらドロドロになった人間っぽいものが出てくるかもしれない」くらいのことなわけで…。

村の人間が熊のせいにしたって可能性も捨てきれないけど、本当に熊に襲われた可能性もあるし、その中でその熊を食べるという発想はマジでやばいの一言です。しかも踏み絵のようにそれを村の人たちに強要されたとしたら、この村で生きていくためには従わなければならないような力を感じます。

村全体の空気感やメンタル面での気持ち悪さもさることながら、物理的な面でも気持ち悪さを感じずにはいられないので、とにかく恐怖心が刺激され続けるサスペンス漫画です。

前任の駐在が行方不明になった真相

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主人公が村に来ることになった理由は「前任の駐在員が行方不明になったから」です。表向きは事件性がないということになっていますが、それを怪しんでいる人間もいます。何より主人公自身が「この村はおかしい」と感じているわけです。

しかし村の人が撮影したという映像を見ると明らかに正気を失っている駐在員の姿があって、それを見てしまうと駐在員の自業自得(薬物かなんか)のような気がしないでもないっていう感じ。

村全体を包む空気の異質さ、そして前任者の失踪。自分も前任者のようになってしまうという危機感を感じつつ、家族を守るために真相を追うという展開は、とてつもなくスリリングなものと言えるでしょう。

ガンニバルを読んだ感想・レビュー

コミックス1巻を読んだ感想・レビュー

村の閉鎖感がとにかく怖くて「何かあってもすぐに警察が来てくれない」という環境がより一層の恐怖感を掻き立てています。なんなら自分がもし村の人に殺されるようなことがあっても、それが事件として明るみに出るかどうかすら怪しいっていうね。

そして前任の駐在員がもしかすると殺されたのかもしれないということを考え出したら、自分も同じようになる可能性が否定できないし、かと言って仲良くするのも難しいほど村人たちが狂気じみているとなると、それも難しいという八方塞がりの感じも巧みに描かれています。

村八分、人食いという要素だけでも都市伝説のような恐怖感に溢れているので、ホラー系サスペンスが好きだという人なら間違いなく楽しめる漫画です。

コミックス全13巻を読んだ感想・レビュー

想像していたよりも遥かにスケールの大きな物語で、読了感はかなりのものでした。単におかしな村の話かと思いきや、そんな言葉で済ませちゃいけないってくらいのやつ。ホラーはホラーでも人怖サスペンスという感じ。

物語の展開としては途中まではめちゃくちゃ面白いです。で、過去の話になるとちょっとダレる。本作は途中から絵が極端に見づらくなるんですよね。元々見やすいタイプの絵ではないし、最終的な絵のスタイルも下手っていうわけではないんだけど、線が太くて人の顔もアップが多いから「誰が誰なのか分からない」ってことが多かったです。

それでいて登場人物も入り混じってきて物語も複雑になってくるので、ぶっちゃけ後半はちょっと読むのがしんどかった。もう一度読み返すってなっても楽しめるのは8巻くらいまでなのかなぁって思いました。

全体的に見たら文句なしに面白かったと思います。ただ、もしこれから読もうと思うんなら10巻以降の絵を試し読みで確認してからでも遅くはないかと。ストーリーは個人的には大好きなやつでした。

あとがき

カニバリズムイズム。