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「凍りの掌 シベリア抑留記」を読んだ感想・レビュー

凍りの掌 シベリア抑留記表紙
Ⓒ凍りの掌 シベリア抑留記

戦争を扱った漫画を読むと、感動とは違った感情で涙させられることが多いです。でも本作はそういうのとはまた違って、それでもかなり衝撃を受けてしまう作品だったと思います。

少なくとも「戦争は二度と繰り返してはいけない」と断言できる内容で、グロテスクな絵もそんなに無いので非常に読みやすい戦争を扱った漫画だと言えるでしょう。というわけで今回は、シベリア抑留の極限状況を生き抜いた実体験「凍りの掌 シベリア抑留記(全1巻完結済み)」を紹介します。

凍りの掌 シベリア抑留記のあらすじ

小澤昌一は東洋大学予科生。東京・本郷の下宿先で銃後の暮らしの中にいた。戦況が悪化する昭和20年1月末、突然名古屋から父が上京し、直接手渡された臨時召集令状。北満州へ送られた後、上官から停戦命令の通達、すなわち終戦を知らされる。実弾を撃つことなく終わった戦争だったが、その後ソ連領の大地を北に向かわされ、ついにシベリアの荒野へ。待っていたのは粗末な収容所と、地獄のような重労働だった。

凍りの掌 シベリア抑留記の見所をチェック!!

戦時中の目を覆いたくなるような残酷なシーン

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Ⓒ凍りの掌 シベリア抑留記

本作を読んで真っ先に思ったのは「戦争の悲惨さを語るうえでグロテスクな絵って必要ないんだな」ってことでした。お世辞にもリアリティを感じないコミカルなタッチの絵ですが、これでも十分すぎるほど戦争の悲惨さが伝わってきます。

というかむしろコミカルなタッチの絵で良かったと思うくらい。所々の表現が秀逸というか言いまわしが上手いというか、何とも言えない雰囲気の演出が巧みです。上官の「窓を開けるな」に対して「隙間からその理由が見えた」って、まさに教科書にありそうな文学的な表現だと思いませんか?

お涙頂戴の演出がほとんどなく、ただ淡々と事実を漫画化しているという感じのする作品なので、色んな感情が邪魔をして戦争漫画を読むことができなかったという人にもおすすめです。特に「戦争のグロテスクな感じ、悲しみに溢れている演出が苦手で読めない」という人にも読みやすい作品だと思います。

敵も味方も見えなくなるドロドロの感じ

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Ⓒ凍りの掌 シベリア抑留記

教科書を通して戦争を勉強している以上は、あまり語られないし見えてこない部分がたくさん載っています。例えば軍隊の規律ってめちゃくちゃ厳しい上下関係の上に成り立っているわけですが、ここを履き違えた上官がたくさんいただろうなぁという感じって言うのかな。

自衛隊が軍隊かそうじゃないかっていう議論は別にして、自衛隊でも年間の自殺者は多いとされているので、理不尽な行為も少なくないのではないかと思います。やっぱ戦争の状況化や戦争を想定するような場には、憩いが無いというか余裕がないような気がしました。

だから敵や味方を見誤るというか、他人を思いやる気持ちに欠けるんですよね。そもそも同じ人類で敵も味方もないんだけど、こういうドロドロな感じからも目を背けずに描かれている作品です。

直接的な攻撃よりも衝撃的な描写

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Ⓒ凍りの掌 シベリア抑留記

「空襲を受けて爆発に巻き込まれて…」みたいなのもしんどいし、僕ら日本人にとっては原爆の被害っていうのがめちゃくちゃ衝撃的なことだと思うんです。でも直接的な攻撃が衝撃的なのは分かりきっているというか、戦争を経験していない僕たちが真っ先に想像する部分だと思います。

ただ、戦争が不利な状況になるやいなや家を燃やされるとか、子供が誘拐されるとかってあんまり想像が及ばない部分ではないでしょうか。個人的には戦争中に爆弾で身体を吹っ飛ばされたっていうのと同じくらい、こっちはこっちですごく衝撃的でした。

こういうのを見てしまったら軽々と「戦争」なんて発想にはならないし、これは語り継いでいった方がいいんじゃないかと思います。にしても日本人の子供は高く売れるっていう発言、一生のうちに言うことも聞くこともないと思ってたけどなぁ。

ドライすぎて驚かされる行動の数々

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Ⓒ凍りの掌 シベリア抑留記

戦争中だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけど、亡くなった人の物を有効活用するっていう判断がしんどいです。僕は幽霊みたいなものも信じてないし、お墓がどうこうみたいな信仰心もほとんどないんだけど、さすがに「亡くなった人から衣服を剥いで有効活用する」みたいな発想は一切ありません。

たぶんこの人も戦争中の切羽詰まった状況じゃなければこんなことは言わないと思うし、そこまでしなきゃならないほど追い詰められた状況っていうのは、想像するだけで胸が痛くなります。

ましてシベリアの寒い土地で裸にして埋めるなんてのは、自分にとってすごく遠い出来事なのにもかかわらず他人事のようには思えないし、胸が締め付けられる思いになりました。やっぱ戦争は繰り返すべきではないと断言できるでしょう。

凍りの掌 シベリア抑留記を読んだ感想・レビュー(ネタバレなし)

シベリアで酷いことになったっていう話を聞くと、僕みたいな人間からすると北方領土問題なんかもあるんで「ロシアってとんでもねーな(当時はロシアじゃなかったけど)」って思ってしまいがちです。でも本作を読むとそういう短絡的な思考は少し危険で、別の見方や感じ方もあるんじゃないかと思いました。

少なくとも同じ日本軍の中にも上下関係があって「誰かが休むと他のみんなに迷惑がかかるからダメ」みたいなことを平気で言ってしまう上官に対する怒りというか、何に対してどういう感情を持っているのかが分からなくなってきます。それだけ異質な空気だったんだろうけど。

絵にリアリティはありませんが、これがむしろ読みやすくなっているのでメリットの一つだと思いました。戦争漫画に対して「グロテスクな絵が苦手で読めない」とか「悲しみの感情で泣かされるのが嫌だ」という人でも読みやすい作品です。全1巻で完結する手頃なボリュームでもあるので、興味があればぜひ読んでみてください。

あとがき

おかわりは無いんです。